平成27年度海外教育連携教員派遣報告
清水重敦 准教授 (コロンビア大学)

所属 デザイン・建築学系
氏名・職名 清水重敦 准教授
専門分野 日本・東アジア建築史、都市・建築遺産論
期間 平成27年12月10日-平成28年2月29日
滞在先 コロンビア大学美術史・考古学部(アメリカ合衆国)

コロンビア大学とアイヴィー・リーグ

コロンビア大学のキャンパス
学内は学生や市民で活気に溢れる

 大都会ニューヨークの中に静謐な佇まいを見せる学問の殿堂、コロンビア大学(Columbia University)は、アイヴィー・リーグの一角を占めるアメリカ屈指の名門総合大学である。アイヴィー・リーグとは、アメリカ東部にある長い歴史を誇る8校の私立大学(ブラウン、コロンビア、コーネル、ダートマス、ハーバード、ペンシルヴァニア、プリンストン、イェール)を指す。マンハッタンにキャンパスを構えるコロンビア大学は、中でも最も都会的な大学である。イギリス時代の1745年にキングスカレッジとしてローワー・マンハッタンに創設され、2度の移転を経て、19世紀後半にマンハッタン北西部のモーニングサイド・ハイツに落ち着いた。一帯は小高い丘状をなし、建築家マッキム・ミード&ホワイトによるアメリカン・ボザール様式のキャンパスの他、神学校、音楽学校、教会が集中した荘厳な雰囲気を醸し出しており、アメリカのアクロポリスとも呼ばれている。 学生数は、学部生約8,600名、大学院生約24,000名と、大学院の規模が学部を圧倒しており、アイヴィー・リーグの中でもハーバード大学と並んで大学院の比重の高い大学である。物理学、化学、生医学等の分野で多数のノーベル賞受賞者を輩出しており、またアイヴィー・リーグ唯一のジャーナリズム大学院を設置していることでも知られる。建築学及び美術史学でも全米屈指のレベルを誇る。また、日本研究の研究者が数多く在籍しており、日本との関係が深い大学でもある。私は本学とも関係の深い美術史家Matthew McKelway教授に受け入れて頂き、訪問研究員として美術史・考古学部に所属して活動を行っている。

教育組織

美術史・考古学部(手前)と建築学部及びエイブリー建築・美術図書館(奥)

 アメリカの大学における教育組織は学部と大学院が別組織になっており、概ね学部には「○○学部」に相当するCollege及びSchoolが、大学院にはSchoolとDepartment(「学科」相当だが、大学院では「学部」から独立しているため「学部」相当)が設けられている。コロンビア大学では、大学本体の他に、教育学部相当のTeacher’s College、女子大のBarnard Collegeが付属する。 セメスター制(秋と春の2学期制)を採っており、秋は9月-12月、春は1月-5月が授業期間である。 大学院には修士課程と博士課程があるが、博士課程には修士号(M. Phil)取得が含まれており、両課程が明瞭に分けられているところに特徴がある。標準年限は、修士課程が2年、博士課程が5年である。博士課程学生には、5年間にわたり学費の免除と返還不要の奨学金給付、住宅の貸与(家賃は高い!)がなされ、研究大学としての志向がよく現れている。 留学生が多いこともコロンビア大の特徴である。全学生中に占める留学生の割合は、学部は16%であるが、大学院になると46%と飛躍的に増える。建築大学院でも51%が留学生である。英語圏であるがゆえの特徴ともいえるが、国際色豊かな教育環境は日本との決定的な違いといえるだろう。留学生への英語教育(ESL)も充実しているが、博士課程レベルではネイティブに引けを取らない英語力が求められるため、ハードルは高い。

美術史・考古学部大学院における講義・ゼミ

McKelway教授のゼミで講義を行う清水

 本学のデザイン・建築学系と関係の深い学部としては、美術史・考古学部と建築・計画・保存学部がある。私の専門分野は両学部に跨るため、両学部のゼミに出席している。 美術史・考古学部には、世界中の美術及び考古学を専門とする教授が幅広く所属しており、日本美術史のMcKelway教授と、建築史のBarry Bergdoll教授及びJonathan Reynolds教授のゼミに出席している。いずれのゼミでも、各回の授業に必読文献が示され(論文5-10本程度)、学生が読んできていることを前提として講義が行われる。うわさに聞くこの読書量の多さは、やはりアメリカ独特の教育方法とのこと。教員は講義をしながらも随時学生に意見を求め、インタラクティブに講義が進む。ここでの積極性が成績評価に反映される。学生からの発言の積極性には目を見張るものがあり、感動すら覚える。参加学生は10名以下が多く、親密な距離感で行われる。 この独特の雰囲気の中で、私も、英語による講義や講演を実施させてもらっている。英語での研究内容の表現の経験となることはもちろんのこと、外国にいる研究者や学生にどのように受け取られるかという経験は、実に得るところが多い。

エイブリー建築・美術図書館の建築アーカイブにおけるF. L. ライト資料を用いたBergdoll教授のゼミ

 参加しているゼミの中で特に興味深いのが、Bergdoll教授による建築家Frank Lloyd Wrightに関するゼミである。これは、近代建築の巨匠の一人であるライトの生誕150周年を記念して、2017年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催されるライトの回顧展のチーフキュレーターを同教授が務めているため、その一環として行われている。コロンビア大学には充実した蔵書を誇るエイブリー建築・美術図書館があり、そこに付属する建築アーカイブに、ライトの図面をはじめとする膨大な資料が所蔵されている。展覧会の主要展示品となるこれらの図面等を素材にして、同ゼミは実施されている。アーカイブを会場にしつつ、ライトの業績を時代順、地域順に追い、資料から浮かび上がる新たなライト像を探ろうとするこのゼミは、博物館学、建築史学を統合しつつ、世界を代表する博物館であるMoMAの展示にも関与することができるというとても充実したものであり、大学院におけるアクティブ・ラーニングのあり方として大いに参考になる。

建築・計画・保存学部大学院歴史保存コースの講義・ゼミ

歴史保存コースDolkart教授による
マンハッタンの現地講義

 建築・計画・保存学部大学院(GSAPP)もとても名高く、教授陣にはバーナード・チュミ、スティーヴン・ホールなどの建築家、ケネス・フランプトン、マーク・ウィグリーなどの歴史家・批評家に代表される豪華な顔ぶれが並ぶ。 私は、専門分野である歴史保存(Historic Preservation)コースについて学んでいる。コロンビアの歴史保存コースは、1965年に設立された、この分野における全米最古の歴史を持つコースである。アメリカは歴史が短く、保存に関して学ぶことなどあるのか、と思われる方もいるかもしれないが、これは全くの間違いと言わざるを得ない。都市内における歴史的建造物や歴史的地区の保存と活用には、制度といい、設計力といい、市民の関心の強さといい、圧倒されるほどの面白さに溢れている。本コースはニューヨーク市をはじめとする全米の保存行政や、民間の設計事務所、あるいは国際組織に卒業生を多数送り込んでいる。教授陣と面談を重ねつつ、2つの講義に出席させてもらっているが、いずれも社会、環境、都市から保存を考える姿勢で組み立てられているのが印象的であった。保存が都市・建築の不可欠な一分野として根付き、あるいはそうであることを常にアピールし続けることを教育の根幹に据えていることが認識された。ニューヨーク市内の歴史保存地区や保存再生事例を見て歩く講義も頻繁に行われている。

マンハッタン生活

新旧がぶつかり合う
ニューヨークの都市景観

 今回のコロンビア大学滞在の主目的は教育内容の視察と現地での教育の実施にあるが、なんといっても大学がマンハッタンにあるのが魅力的である。私は大学のすぐ南にある大学管理のアパートを借りて住んでおり、フリータイムには英語の学習にいそしむのはもちろんのこと、マンハッタンのあちこちを探検している。 ニューヨークという都市は、大胆な開発と歴史保存とが、時に衝突し、時には折り合いを付けながら、ダイナミックな変化を続けている点で、唯一無二の都市である。新しい建物が次々と建てられており、9/11後のWTCに建設予定の4棟も、すでに2棟が竣工している。超高層ビルも、このマンハッタンの景観にいかに新しい1棟を追加すべきかを考え抜いてデザインされているように感じられる。 同時に、町中に多くの町並み保存地区(Historic District)があることもこの町に深みを与えている。マンハッタンだけで51地区が指定されており、これらを悉皆的に歩いて廻っている。保存制度は日本の伝建地区と景観条例による保全地区を混ぜ合わせたようなものに感じられるが、両者が一体となっていることで、より未来志向の町並み保存が試みられているように感じられる。 さて、マンハッタン巡りをすると腹が減る、というわけで、世界中のグルメが集まるニューヨークの食も、私の調査対象になっている。日本では、アメリカの料理はイマイチという評判を聞くこともあるが、こちらに来てみると、そんな思い込みは吹っ飛んでしまう。牛肉の美味さといったら・・・最近日本でも流行っている熟成肉は、こちらではもはや伝統的なもので、超ハイレベル。A級だけでなく、B級グルメも充実していて、特にバーガーは日本とは全くの別物である。あと、実は日本食ブームが続いていて、スシはもはやアメリカの定番料理に。そして、特にブームを牽引しているのがラーメン。もちろん、それも私の悉皆調査の対象になっている。